ヘヴィメタル作品のレビューについて

2017/01/19

その他/コラム


 私はメタルを聴き始めた当初から、非常に多くのレビューサイト、およびAmazon等に書かれたレビューを読んで来ました。しかしながら、いくつかの優れた熱意のあるレビューを拝読するにつれて、そうではないレビューがあまりにも多すぎる現状に疑問を抱くようになりました。この記事では、私が思う現在流行しているレビューの特徴その他について言及したいと思います。

 今の現在のメタルのレビューの大半に挙げられる特徴として

・文章が短すぎる(300字未満のレビューしか見当たらない作品が山ほどある)

・難解な音楽性のミュージシャンを「プログレッシヴ」「カオティック」「知的」といった定型句のみで表現している
・レビューする作品を3回前後しか聴いていない(発表日時や更新頻度からの推測、およびレビュアー本人の発言)
・一次情報(ミュージシャン本人のインタビュー等)を参照していない
 

といった点が挙げられます。もちろん、短文でも作品の特徴を的確に捉えている方など、こうした条件に当てはまっていて優れたレビューを書いている方々はもちろん居ます。私がこういった特徴の全てに当てはまっていないというわけではありません。どんなレビューを書くのかは各自の自由ですし、マイナーな良作を知るきっかけにもなります。しかしながら、こういった特徴に当てはまるレビューばかりが目立ち、それを真似する方が増え、というサイクルが発生しているのは間違い無いと思います。要するに、

「年に100枚以上CDを買うくらいの相当な音楽通が、数回聴いた新譜を、定型句を使って特徴を羅列して、(曲毎の感想を除いて)500字くらいで紹介して、最低でも週に1回程度は更新し続けなければいけないのがレビューサイトなんだ」

という意識が蔓延しているとしか思えません。もちろん、この形式で優れたレビューを書いている方も居ますが、そういったケースはごく稀だと思います。こうしたレビューばかりでは音楽の奥深い所を理解しようとする方が減る一方なのではないだろうかという思いは個人的にありますし、あるいは単に参考になるレビューが少なくて困っている人は居ると思います。


 高度な音楽的分析をしたり、長文を書くハードルは高いですが、視聴回数に関しては各々の心掛けだけで容易に改善出来るものです。取るに足らない没個性的な凡作ならともかく、"インパクトはあるが深みに欠ける"作品や、逆に"聴けば聴くほど味が出る"作品はいくらでもあります。後者の様な作品には、何度も聴かなければ分からない奥深さがあるはずです。新譜を手際よく紹介するの"だけ"がレビューではありません。数回聴いた作品を紹介する新譜レビューサイトが大半を占めている為、そういった誤解をなさっている方は多いとは思います。が、何十回と聴いた作品をそれなりに掘り下げるようなレビューこそ読みたい方は多いはずです。そうしたレビューというものは、月に何十枚も新譜レビュー書いている方には時間的になかなか書けないものです。

 また、こればっかりはどうしようもない事ではありますが、近年の中堅~マイナーな作品の多くは、数回聴いて書かれたと思われるレビュー数個によって、その作品の"日本における世間的評価のようなもの"がある程度形成されてしまっているという現状はあると思います。海外では傑作扱いされている作品でも、日本では低評価、あるいは浅薄すぎるレビューしか見当たらない作品は数多くあります。現状、日本語圏で近年の中堅~マイナーなメタルバンドの作品の世間的評価を知るのは不可能(数人のレビュアーによる評価では単純に分母が少なすぎる)なので、Rate Your MusicMetal Storm(このリンク先は2016年作品の人気ランキング)といった海外サイトを参考にするほか無い、というのが私の考えです。

 そして、私が一番主張したいことは、英語圏の情報を参照する風潮がもっと広まって欲しい、ということです。日本語圏では、「アヴァンギャルドかつ難解だ」といった風なレビューが大半を占める高度な音楽性の名盤も、英語版Wikipediaページではメンバーのバックグラウンドや作品のテーマが書かれている場合すらあります。他の作品でも、ミュージシャン本人による全曲解説が見つかったりもします。英語圏と非英語圏には、こうした埋められない情報格差があります。有意義な第一次情報を参照した、その作品を既に知っている人が勉強になる情報がもっと増えてほしいと願っています。非日本語圏の情報を参照しているレビューとそうでないレビューとでは、説得力が雲泥の差です。

 あれこれレビューについて言ってきました。とはいえ、ここ数年のメタルのレビュアーは本当に数が少ないです。その中で、(好みや巧拙はさておき)読むのに10秒以上掛かるレビューをコンスタントに書いている方はさらに少ないです。そういった方は別に仕事でレビューを書いている訳では無いので、いつ引退するとも限りません。数人のレビュアーを書くのを辞めるだけで、「参考になる日本語の新譜レビューが一つも見当たらない作品が大半を占める」という状況が出来上がります。私が先ほどから申し上げている事と矛盾するようですが、「新譜を簡潔に紹介するレビュー」というものも、レビューの数自体が少なすぎる今の日本において間違いなく需要はあります。皆さん、どんどんレビューを書いてみましょう。

 Twitterが普及してからというもの、「ブログを始める=ある程度更新し続ける覚悟が無いとダメ」だと錯覚している方も多いとは思いますが、違います。ブログとは本来気楽に始められるものです。開設には10分と掛かりません。メタルのレビューはとても数が少ないので、書けば検索上位に絶対来ます。
例えば、私が書いたIN FLAMES 『Battles』のレビューは公開して一か月でのアクセス数は1200程度です。「意外と多いな。」と思った方も多いのではないでしょうか。名の知られたブログで無くても、有名バンドの新作レビューならこの位の人は集まるわけです。Twitterで「〇〇の新譜最高!」とつぶやいてRTされるのはもちろん嬉しいですが、それなりに時間を掛けて書いたレビューをブログに公開するほうがその作品の魅力をもっと多くの方に知ってもらえるのは間違い無いですし、やりがいもあるのではないでしょうか。正直、Twitterで適当にバンド名や作品名で検索してみると、「この人はこんなに鋭い事を書いているのになぜブログを始めないのだろう?」と思えるような発言は割と目にします。そういう方々、特に楽器を弾ける方や楽理を知っている方は、ぜひ気楽にブログを始めてみて欲しいですね。私を含めた楽理を知らないレビュアーの何倍も音楽を知っているはずですので。定期的にレビューを書き続けなければいけないとか、記事数が少ないブログはなんか見栄えが悪いとか、そういう価値観で自分を縛る必要は皆無です。


 ちなみに、私がレビューを書く際に主に気を付けている事は以下の点です。

・何回もその作品を聴く
・なるべく英語の文献を参照する
・他人が言及してなさそうな事を書く


英語の情報源を少し探れば日本語圏で知られていない事柄はいくらでも見つかりますし、気に入った作品を何回も気合を入れて聴けば、音楽的知識の皆無な私でもその作品独自の味わいは自然と見えてくる場合は少なくありません。なので、私は難しい事をしている訳ではありません。むしろ、「何回もその作品を聴く」「英語圏の情報を調べる」というのは、自らの知識や個人的好みのみでレビューを書くよりも圧倒的に楽なレビューの書き方です。何十回、とまではいかずともせめて5回以上聴いたうえで書かれたレビュー、音楽性の変容が伝わる全作レビュー、否が応でも愛情が伝わる長文レビュー、英語圏の情報を参照したレビュー、あるいは英文インタビューの和訳や充実したWikipediaページなど、そうした文章が増えることを願っています。
私は全く難しい事は言っていません。ただ、「何回もその作品を聴いて、可能なら英語圏の情報も参照して、少しばかり表現に気を使って、そこそこの文字数のレビューを書いたほうが自分にとっても読者にとっても有意義ではないでしょうか」と主張しているだけです。





 最後に、「インタビュー等の一次情報を参考にする」事がどれほど有意義かについて、SOILWORKを例に挙げて説明しましょう。このバンドは一般的には「初期は典型的なメロデスだったが、次第にモダンになっていったバンド」と説明されています。しかし、その説明では不十分です。

 ギタリストのピーターは2001年日本語インタビューで、自身の音楽性について質問された際、

「自分達の音楽を考えた場合、バンド全体が日々成長していると思うんだけど、特にボーカル・スタイルの成長を見逃すことはできないよ。このボーカルにおいては本当にステップ・アップして、これまでとは違うなと思う。もちろんこの手のデス・ボイス以外のノーマル・ボイスを取り入れたバンドはこれまでにもいるけど、でも一人のシンガーでバラエティをもたせてやったっていうバンドはいないんじゃないかな。しかもそれをアルバムだけでなくライブでも再現することができたっていうことが他のバンドと違う点だと思うよ。あともうひとつSOILWORKの違う点というと、単にデス・メタルからの影響だけではなく、ハード・ロックからの影響もあるということだね。僕達の音楽はスクリーミング・ボーカルの入ったメロディック・ハード・ロック・バンドとも形容できると思うよ。 」(引用元) 

ハードロックからの影響を明言しています。2007年の別の日本語インタビューでは、ヴォーカルのビヨーンも「俺達はメタルミュージックシーンの中では少し変わったバックグラウンドを持っている」(引用元)と自らのルーツが他の同時代のバンドとは違う事を示唆しています。また、『The Panic Broadcast』発売時の海外のインタビューでピーターは、曲作りの際にはブルースの要素を取り込む為にDEEP PURPLEやTHIN LIZZYといった昔の音楽を参考にしており、そうした要素がSOILWORKの楽曲にも表れているとも言っています。

 実際、SOILWROKの楽曲群からは確かにハードロック(ブルース)の要素が伺えます。一般的には「北欧らしいデスラッシュ」とだけ形容される2nd『The Chainheart Machine』の時点でその要素は明確に示されているのです。例えば「Millionflame」。後半のベースソロ以降の展開を聴いてみて下さい。ドラムパターンはDEEP PURPLEやRAINBOWが多用したシャッフルビートですし、ギターリフとソロは完全にハードロックと呼べるでしょう。

 SOILWORKはその後の活動でも、一貫してハードロック要素を採用し続けたバンドです。以下の曲はイントロからしてかなりハードロック(ブルース)色が強く、分かりやすいかと思います(他にも数えきれない程あるのですが)。


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 中でも、『The Panic Broadcast』収録の「Two Lives Worth Of Reckoning」は、アメリカン・ハードロックの名バンドKANSASのヒット曲「Carry On My Wayward Son」を下敷きにしたと思われる曲で、サビの歌メロやギターリフがかなり似ています。もちろん、十分な差別化が図れている辺りがSOILWORKの凄まじい点なのですが。


 この様に、SOILWORKは往年のメロディアスなハードロックの要素を前面に押し出した現代エクストリーム・メタル界の異端児と呼べるバンドであり、メロデスの代表格と呼ばれるバンドではあるものの、AT THE GATESやIN FLAMESの様なメロデス的なリフやメロディは決して多くはありません。つまり、SOILWORKは確かに「メロディックなデスメタル」ではあるものの、一般的な「メロディック・デス・メタル」とは大幅に異なる音楽性だと言えます。SOILWORKの音楽性を一言で形容するのは本当に難しいのですが、しいて言うなら「モダンなハードロック風メロデス」、あるいは「メロディック・デス・ハードロック」といった所でしょうか(・・・無理ありますけど)。

 しかしながら、2016年以前に書かれた200越えるSOILWORK作品のレビューのうち、「昔のハードロック風の曲が多い」といった旨が書かれたレビューは私の知る限りたったの2つ。「この曲はハードロック(ブルース)っぽい」と書かれたレビューが3つほど。それ以外の大半は大同小異で、作品の全体像については「デスボイスとクリーンボイスを使い分けるモダンでキャッチーなメロデス。」くらいしか書かれていないレビューが非常に多いです。

 そして、この事実から導き出される事実は3つ。

・SOILWORKという非常に有名なバンドの音楽の根幹を成す部分に触れられたレビューは現時点で皆無に等しい。

・多くのレビュアーはインタビューを読む事の重要性を認識していない。


・自らの経験や音楽的知識だけで特定のミュージシャンの影響元を正確に把握するのは非常に困難。


という事です。以上の3点は単なる悲しい事実としてどうか受け止めて下さい。世界中のメタラーがSOILWORKの事を「モダン化したメロデスバンド」という、的外れでは無いにしろ不十分な認識でいるのです。残念ながら、彼らの作品を「メロデス特有のワンパターンさが目立つ」「メタルコアと変わらない」といったピントのズレた低評価を下しているレビュアーや、昔のハードロック風のリフを指して「モダンなリフだ」と形容している方はそれなりに居ます

 とはいえ、皆様が全くSOILWORKの事を分かってなかったかといえば、そうではないと思われます。4th『Natural Born Chaos』以降のSOILWORK作品のレビューを読むと分かります。多くの方が「モダンなメロデスだ」、「もはやメロデスには留まらない多彩なリフだ」「メロディアスでキャッチーだ」「まさにSOILWORKらしい曲だ」と形容する一方で、「実に北欧メロデスらしい叙情的なメロディだ」なり「いかにも〇〇風の歌メロだ」と具体的に分析している方は極端に少ないのです。つまり、皆様SOILWORKのメロディやリフの質感が他の北欧メロデスバンドや"モダン"なバンドと相当に異なる事自体は感じ取っていたが、それをうまく形容するワードが見当たらず、結果的に「モダンなメロデス」といった表現や「もはやメロデスではない」といった否定形でしか形容出来なかった・・・という事だと思われます。

 また、多くの方が言う"モダン"というのは「デスボイスとクリーンボイスの使い分け」、あるいは「PANTERAっぽい」という意味だと思われますが、確かにPANTERA自体ブルースの要素が強いですし、SOILWORKも大きな影響を受けているバンドです。SOILWORKはMESHUGGAHからも影響を受けている様ですし、SOILWORKを"モダン"と形容するのは決して的外れではありません。しかしながら、「Two Lives Worth Of Reckoning」とKANSAS「Carry On My Wayward Son」の類似性や、多くのSOILWORK楽曲にある全くメロデス的ではないメロディから見るに、SOILWORKは他のPANTERA影響下にあるバンドよりも遥かに直接的に往年のハードロックを参照しているバンドだと言えます。そもそも、メンバーがそう明言してますし。

 長くなりましたが、要するに、SOILWORKという現代のメタルを聴いている人なら知らぬは居ない有名なバンドであっても、その音楽の重要な構成要素であるハードロックについてはほとど言及されてこなかったのです。2001年の日本語インタビューでメンバーがそう明言していたにも関わらず。自分がSOILWORKのハードロック要素について認識したのは最近の話なので、全くエラそうな事は言えません。しかしながら、こうした事実を目の当たりにすると、他のミュージシャンのレビューの正確性はどうなのか、そして果たしてインタビューというものを真剣に読んでいる方は日本にどれほど居るのだろうかとの疑念が湧いてきてしまいます。これではインタビュアーもそれに応じるミュージシャンも浮かばれません。確かに、ツアーの調子がどうとか音楽とは関係の無い話題もインタビューには多いですし、自らの影響元等をあまり口にしない人も多いです。しかしながら、我々のような凡夫では気付けない真言を口にするミュージシャンも居ます。例えば、こちらのCYNICのポール・マスダヴィルへのインタビューをご覧ください。自身も一流のミュージシャンであるSIGHの川嶋未来氏による鋭い質問に、ポールは懇切丁寧に回答をしてくれています。ここまで興味深く有意義なインタビューも日本語圏には存在するのです(CYNICの楽曲がクラシックで言うところの変奏のテクニックが用いられているという点について自力で気付ける方がこの地球上に何人居るでしょうか?) 

  「〇〇フォロワー」としか形容できないB級C級のバンド、あるいはオーソドックスな音楽性のハードロックバンドやメロスピバンドの影響元は明々白々で調べる必要性はあまり無いかもしれませんが、近年のいわゆる"プログレッシヴ"、"アヴァンギャルド"と形容されるバンドはその音楽の成り立ちを自力で解き明かすのが困難な場合が多く、リサーチの重要性は非常に高いです。例えば、「MESHUGGAHから大きな影響を受けている」と誰もが口にするBORN OF OSIRISは、本人たちは実はあまり直接的な影響は受けていないと日本語インタビューにおいて明言していたりもします(参考)。

 皆様も、一度自分の大好きなバンドや今一つ音楽性が掴めないバンドについて深く調べてみるのはどうでしょうか。それなりのキャリアと人気のあるバンドなら、「(バンド名) Interview」で検索すれば相当な数のインタビューが見つかります。イチから英語を勉強しろとは言いませんが、そこそこの英語力があるならインタビューの1つや2つを読んでみるのは非常に有意義です。こうした情報収集の重要性を十分に認識していると思しきレビュアーは、私の知る限りこの約20年間で20人には達していません。(ちなみに、Amazonのレビュアーにも1人居るのですが、その方のレビューは「参考になった」の数が非常に多い大変素晴らしいレビューを書いています。その方はメタル作品のレビューを殆ど書いて居ない様ですけど。) BABYMETAL関連の英文記事の和訳が読みきれ無い程あるのとは対照的です。

 自らの培ってきた音楽的知識や周囲のレビュアーの意見のみを参照してレビューを書くのではなく、ほんの少しでも"調べた"上でレビューを書く方が増えることを切に願います。

 SOILWORKとハードロックの関係性について、詳しくは以下の記事を参照して下さい。俊才デヴィッド・アンダーソンが加入してからのSOILWORKの作品は、ハードロック要素を従来以上に前面に押し出しただけでなくジャズの要素まで取り入れた、ほとんどメロデスとは呼べない個性的な名作を生み出しています。

超名盤 SOILWORK 『The Ride Majestic』 レビュー (および彼らとハードロックの関係性)