名盤 ARCHITECTS 『All Our Gods Have Abandoned Us』 レビュー

2017/01/10

アルバムレビュー




 ARCHITECTS(ARCHITECTS UKと表記される場合もあり)は2004年に結成されたイギリスのメタルコアバンドです。THE DILLINGER ESCAPE PLANやCONVERGE的なカオティック・ハードコア的スタイルから、次第にUNDEROATH等のポスト・ハードコア(寄りメタルコア)的なシンプルさを増したスタイルへとシフトしていきました。また、UNDEROATHやNORMA JEANらと同じく、北欧メロデスからの直接的な影響を(おそらく)ほとんど受けていない、ポスト・ハードコア派閥のメタルコアバンドの1つでもあります。日本での知名度はいま一つの様ですが、海外での人気や音楽雑誌における評価はなかなか高く、個人的にも、現在活動してるメタルコアバンドの中では相当にセンスがあるバンドだと思います。2016年発表の今作『All Our Gods Have Abandoned Us』は、3年間にわたるガンとの闘病の末、28歳の若さで2016年8月に逝去したギタリストのトム・サールの遺作となってしまった作品です。

 今作における彼らの楽曲で特徴的なのは、同一リフの繰り返しの多さでしょう。リフというのは繰り返し(リフレイン)だからリフと呼ばれている訳ですが、彼らの楽曲はその繰り返しの執拗さがエゲツないのです。「Downfall」はその方向性を特に突き詰めた曲です。曲中のほぼ全編で特徴的な速弾きリフが繰り返されています(中盤のギターが鳴り止んだパートでもベースがそのリフを奏でています)。この曲以外の曲でも、他のリフ主導のメタルバンドと比べて同一リフ(およびそれを微妙に変化させたリフ)の反復が支配的な曲が多く、ある種ミニマルミュージック的?な陶酔感や、独特の緊迫感を聴き手にもたらす事に成功している様に思います。ここまで同一のフレーズを執拗に繰り返す楽曲構成のバンドは、少なくともメロデス/メタルコア/デスコア周辺のジャンルでは初めてお目にかかりました。こういった執拗な反復構成は前作収録の名曲「Naysayer」でも用いられており、今作は全体を通じてその路線を発展させた作風と呼べるでしょう。
こちらも「Downfall」と同じ手法の名曲。他にも「Nihilist」や「Phantom Fear」といった曲も同様の反復構成の曲となっています。

 そもそも、このバンドのリフは基本的にブレイクダウン寄りのゴツゴツとしたものが多いのですが、そのリフに対するメロディの組み込み方がかなりセンスがある様に感じます。随所に組み込まれた速弾きのフレーズや、浮遊感&透明感のある繊細なアトモスフェリックなギターやシンセサイザーなど、聴き手を退屈させない工夫が随所に感じられます。また、カオティック・ハードコア寄りの音楽をやっていた経験のおかげか、演奏の歯切れの良さや、リズムのアクセント面での細やかな編曲の妙も光っています。ブレイクダウン主体のバンドは曲全体の色彩がモノトーンになってしまう傾向があって個人的な好みから外れることが多いのですが、このバンドは退屈せずに聴けますね。

 また、ヴォーカリゼーションに関して言えば、通常のメタルコアバンドがクリーンボイスで歌う様なパートを、シャウトあるいは"セミ・クリーン"と形容できる歌声で歌っているパートがかなり多いです。結果として、"軟弱"と非難されがちなサビのパートであっても甘くなり過ぎず、攻撃性を適度に保持したままでいるのです。実際、今作発売時のインタビューでヴォーカルのサム・カーターは「クリーンボイスのパートを増やし過ぎると聴いてる方が飽きちゃうよ。」と語っており、メタルコアの様式が抱える弱点については意識的なようです。

 リフや歌メロがワンパターン気味というメロデス/メタルコア全体に言える弱点は、残念ながら今作にもあります。しかしながら、執拗な反復構成、および安直にクリーンボイスを用いず甘くなり過ぎないヴォーカルによる異様な切迫感、シリアスなムードに関しては、他の大半のメタル作品に無い独自の魅力だと言えるでしょう。自分は色々なメタルコア作品を聴いてきましたが、個性の確立度や作品全体の統一感という観点で言えば、メタルコア史上トップ10には入る充実度だと思います。 特に個性の確立度に関しては特筆すべきで、KILLSWITCH ENGAGEやAS I LAY DYINGといったバンドの影響下にあり、クオリティ面やメロディの好みはともかく楽曲の様式としては"フォロワー"の域から脱却し切れていない多くのメタルコアバンドとは一線を画しています。個人的には、今作はメタルコアの作品にありがちな「アルバム後半の息切れ」もギリギリ回避出来ていると思います。これほどの名作を産み出したバンドの主要ソングライターがこの世を去ってしまったという事実は本当に悲しいですし、何かとネガティブな話題が多い気がするメタルコア・シーンの今後が心配になってしまいますね。

 また、英Kerrang!誌の2014年のAlbums Of The Yearに選出されていた前作『Lost Forever // Lost Together』もオススメの作品です。今作よりもストレートにメタルコア的なテンポチェンジが多く、反復よりも展開を重視した作風です。メタルコア好きなら気に入る事間違い無しの作品ですので、こちらも必聴です。

 ちなみに、ヴォーカルのサム・カーターが特に好きな書籍、映画、アルバムは
・エックハルト・トール 『さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる』

・クリストファー・ノーラン 『インターステラー』
・UNDEROATH 『Define The Great Line』

だそうです。

トム・サールの闘病をテーマにした、高揚感と悲壮感が同居する今作屈指の名曲。


 



参考文献
http://wtfmagazine.com/index.php/2016/sam-carter-from-architects-on-all-our-gods-have-abandoned-us/