知らないのは日本人だけ! 大傑作 GOJIRA 『MAGMA』 (11/6改訂版)

2016/11/06

アルバムレビュー


 フレンチ・メタル界の大御所GOJIRAの6枚目です。GOJIRAというバンドは海外での人気とは裏腹に日本における知名度はとても低いです。シーシェパードを支持しているという彼らの立場が、日本におけるプロモーションにおいてやや不利に働いているのかもしれません。が、それにしたって知名度が低すぎる気もします(そもそも、日本人はメタルの歌詞等をあまり気にしませんし)。彼らの代表作『From Mars to Sirius』は、Rate Your MusicのProgressive Metal作品のランキングにおいてOPETHやCYNICといったバンドの作品群と並ぶ評価を得ています。海外における彼らの人気を知らない方は驚いたのではないでしょうか。その作品は海外のメタラーなら「知っていて当たり前」くらいの作品だと思われるので、ぜひ聴いておきましょう。

 MESHUGGAH, MORBID ANGELやNEUROSISといったバンドから影響を受けたギターリフは浮遊感と重厚感が完璧に両立しており、多くのメタラーにとって好まれるモノでしょう。そして、私が思うGOJIRA最大の魅力はヴォーカルです。Joe Duplantierの歌声は、没個性的になりがちなエクストリーム・メタルにおけるヴォーカリストの中でもズバ抜けて記名性があり、私が色々聴いてきたメタルのヴォーカリストの中でも特に優れている部類に入ります。また、彼らの楽曲の歌の旋律はデスボイスパートもクリーンボイスパートも関係無く優れています。歌とギターリフのどちらか一方だけに注目していては、彼らの楽曲の魅力を掴むのは難しいと思います(数年前の私はデスボイスとギターリフを同時に聴く事に慣れておらず、彼らの魅力を掴み損ねていました)。
 
 驚異的な実力者であるMario Duplantierのドラミングにも触れておきます。彼はインタビューで「今回はシンプルなドラミングを心がけた。自分にとってより技巧的なミュージシャンでいるという事は、よりシンプルにプレイすることだと思う。リズムの芯に合わせるのは難しかったが、今作の楽曲にはそういった演奏が求められていると思う。」(意訳)と語っています(参考)。多くのブルデス/テクデスのドラマー達とは真逆の価値観の様ですね。実際、今作における彼のフレージングは従来より地味ながらもツボを押さえたもので、聴けば聴くほどその深みを感じることが出来ます。
このように、派手な演奏を志向した結果として地味になってしまうのか、始めからシンプルな演奏を目指したのかによって、その演奏の持つ意味合いは異なってきます。

 今作ではクリーンボイスのパートが従来よりも格段に増え、また各楽器の演奏も"力押し"する様な場面が少なく、第一印象では単に柔和になった印象を受けます。が、今作は"穏やかで地味になった"だけの作品ではありません。メタルとしてのアグレッションは十二分に備えていますし、何より作品全体の空気感や流れが唯一無二なのです。聴き手の心にスッと入り込む様に始まり、全体的に内省的かつ不穏なムードが漂いつつも、その感情を聴き手に押し付ける感触は(他のメタルよりは)感じられず、最終的には不思議な余韻を残して幕を閉じます。"沈み込む"感触の暗いメタルを好まない私としても適度な距離感を持って接することが出来ます。こうした味わいの作品はなかなか無いもので、約44分という短めな尺なのもあり、何度も繰り返し聴きたくなる中毒性に満ちています。 

 今作は、彼らの過去作および同系統のバンドの作品群と比べても、個性という点では群を抜いていると思います。 「激しい音楽が聴きたい」とか「デスメタルが聴きたい」という気分の時に手を取る作品とは違い、「『Magma』を聴きたい」という気にさせてくれます。1,2回聴いた程度で判断できるほど底の浅い作品では無いことは間違いないので、最低でも5回は聴いてみましょう。私はこの作品を何十回も聴いていますが、まだまだこの作品から離れられそうにありません。ここ数年のメタルの作品の中では次元が違う名盤だと思いますので、「知らないのは日本人だけ!」なんて目を惹きそうなタイトルを付けた次第です。必聴。

 ちなみに、今作のクリーンボイスパートを私の頭の中で勝手にシャウトに変換してみると、歌の旋律自体は従来とあまり変わっていないと感じました。アウトプットが穏やかになったとはいえ、彼らの音楽性の本質というものはそこまで変わっていないのかもしれませんね。





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