新機軸の名盤 IN FLAMES 『Battles』 レビュー(1/04改訂版)

2016/12/10

アルバムレビュー

 

 スウェーデンを代表するオルタナティブ・メタルバンドIN FLAMESの12枚目の作品をレビューします。本作のレビューに先立って、IN FLAMESがいわゆる"モダン化"して以降、すなわち作曲面におけるヴォーカルのアンダース・フリーデンの存在感が増した『Rerote To Remasin』以降の彼らの音楽性を知るのに最適な資料である、アンダース・フリーデンの人生を変えた5枚のアルバムを掲載しておきます(前作発売時に語っていました)。

アンダース・フリーデンの人生を変えた5枚のアルバム
DEPECHE MODE 『Construction Time Again』
NINE INCH NAILS 『The Downward Spiral』
ALICE IN CHAINS 『Dirt』
IRON MAIDEN 『Live After Death』
TOOL 『Ænima』

 この中で、メタラーにはあまり馴染みが無いと思われるDEPECHE MODE(デペッシュ・モード)を紹介しておきます。1980年のデビュー当初から多くの名曲を生み出し続けている彼らは日本での知名度はやや低めですが、欧米ではスタジアム級の人気を誇るニュー・ウェーブ(シンセポップ)の大御所です。彼らの音楽・ヴィジュアル面・歌詞の世界観がメタルに与えた影響は結構なモノで、いわゆる「オルタナティブ」「インダストリアル」「ゴシック」といったジャンルを中心に、かなりのバンドがDEPECHE MODE影響下にあることが分かります。こういったバンドが好きなメタラーは是非DEPECHE MODEを聴いておきましょう。

DEPECHE MODEからの影響を公言しているメタルバンド一覧
NINE INCH NAILS
MARILYN MANSON
DEFTONES
RAMMSTEIN
MINISTRY
FEAR FACTORY
LACUNA COIL
HIM
CONVERGE etc...

IN FLAMESが3rd『Whoracle』でカバーした名曲『Construction Time Again』収録。

彼ら最大のヒット作『Violator』収録の名曲。

 IN FLAMESのアンダース特に影響を受けたシンガーとしては、NINE INCH NAILSのトレント・レズナーDEPECHE MODEのマーティン・ゴアALICE IN CHAINSのレイン・ステイリーの三人の名を挙げています。IN FLAMESの歌メロやアンダースの歌唱法の影響元としては、DEPECHE MODE, および彼らの影響を大きく受けたKORNNINE INCH NAILS辺りでしょう(私は楽理を全く知らないので、ピントがズレてる指摘だったらスミマセン)。

 で、従来からDEPECHE MODEの影響があった彼らですが、歌の旋律に力を入れた今作は特にその傾向が強く感じられました。この歌メロ重視の方向性は、プロデューサーのハワード・ベンソン(MY CHEMICAL ROMANCEやHOOBASTANKといったメジャーでポップなバンドを数多く担当)の指導と監修によるものだとギターのニクラス・エンゲリンは語っていました。 今作の歌メロにいわゆるエモを彷彿とさせるものが散見するのも彼の影響でしょう。BRING ME THE HORIZONの近作を想起させる「Here Until Forever」のサビが好例です。また、アンダースのヴォーカルは、感情表現に重きを置きすぎて賛否が分かれていた近作よりも、(悪い意味でなく)ノーマルになり、小ざっぱりとした印象を受けます。 さらに、今作のコーラスワークに関しては特筆すべきものがあります。「The End」、「Before I Fall」(特にラストのサビ)、「Through My Eyes」、「Here Until Forever」、や「Battles」といった曲におけるポップ的なコーラスワークは新機軸と呼べるのではないでしょうか。
先行公開されて賛否が分かれた曲。合唱は子ども達によるもののではなく、20代半ばの男女のだそうです。サビのギターの旋律にはメロデス感がありますね。この曲や「Drained」、「Before I Fall」、「Save Me」といった曲におけるシンセやギターの反復するフレーズもDEPECHE MODEからの影響でしょう。 
 
アンダースがキャリア屈指の高音を出しているサビの高揚感が秀逸な名曲。彼らの曲で、ここまでストレートにポップなメロディは珍しい。

 楽器陣の演奏に関しては、前作、前々作と比較して、グルーヴで主張するよりも歌を引き立たせる事に重点を置いている様に感じます(単なる音作りの問題かもしれませんが)。また、新任ドラマーのジョー・リカードのプレイも、そうした歌メロ重視の印象をリスナーに与えるのに一役買っています。シンプルかつ個性的なフレージングと力強いグルーヴで曲全体を牽引していた前任者ダニエル・スヴェンソンとは異なり、ジョーは手数多めで曲に合わせる演奏をしているように感じます。また、「Here Until Forever」といった曲で用いられているダンサンブルなリズムパターンは従来の彼らには見られなかったものですね。

 総じて、今作は彼らの作品中で最も「ポップさ」「軽さ」が目立つ作風でしょう。今作は晴れやかなロサンゼルスで録音されており、薄暗いムードの秋のベルリンで録音された前作よりもかなり"Happy"なムードがあります(ニクラス談)。また、音作り、演奏、およびメロディの質感からは、近作の強力なエモショーナルさと悲壮感、すなわち演奏面だけでない感情的な"重さ"も要素減退した様に感じます。とはいえ、彼ら特有の、「メタル的質感と非メタル的メランコリーの両立」は相変わらず見事で、従来よりも前向きなポップさを重視したせいか、悲壮感はあるがメソメソとしていないバイブスが強く感じられます。名盤『A Sense Of Purpose』収録の「The Chosen Pessimist」を意識して作られたというダークな「Wallflower」以外の曲はコンパクトかつキャッチーで、メタルに馴染みの無い方にもオススメしたいですね。

 近年の彼らにとっては毎度の事ですが、メロデスを期待して今作を聴くと期待ハズレになる可能性が高いと思います。が、「IN FLAMESを聴く」とか、「かつてのメロデスバンドを聴く」とか思わずに先入観を抜きにして聴けば、なかなか新鮮味があるかもしれませんよ。インタビューにおいて度々「前と同じ様な事はしない」とか「周りの声は気にしない」と公言している彼らですが、今作においても新境地に達していると言って良いでしょう。少なくとも、他のメタル作品には無い個性はあります。個人的には、いわゆる「北欧風の慟哭ギターリフ」という武器のみで勝負していた初期よりも、「ニューウェーブ~オルタナティブメタル風の歌メロ」、「随所に顔を出す垢抜けたギターの旋律」、「技巧的では無いがまとまりのある演奏&グルーヴ」を武器とする現在の路線のほうが総合力では上だと思っています。

 IN FLAMESは私が最も好きなメタルバンドの1つなので、ファンの贔屓目が入ってしまうのを百も承知で言いますが、今作は名盤でしょう。私の2016年ベストメタルアルバムです。ちなみに、国内盤には、ライブで客の掛け声で盛り上がりそうな「Greatest Greed」と、どことなく『Reroute To Remain』期を彷彿とさせる歌メロ&疾走感の「Us Against The World」と、ボーナストラックなのが考えられない位の名曲が収録されてます。なので、買うなら国内盤が絶対オススメです。
   
彼らの新たな代表曲となるであろう曲。個人的には、今作収録曲で一番のお気に入りです。

参考文献
https://theupsidenews.com/2016/11/04/interview-in-flames-on-new-album-battles/
http://www.blabbermouth.net/news/in-flames-anders-friden-says-he-is-fully-aware-of-haters/
http://teamrock.com/feature/2016-11-07/in-flames-track-by-track-guide-to-new-album-battle
http://www.theaureview.com/interviews/anders-friden-of-in-flames-sweden-talks-touring-whats-coming-up-in-2015-and-more
http://www.rollingstone.com/music/news/are-depeche-mode-metals-biggest-secret-influence-20150811


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