ジェント名盤 PERIPHERY『Periphery III: Select Difficulty』レビュー (05/03更新)

2017/04/17

アルバムレビュー

 2010年に1stアルバムをリリースしたPERIPHERY(結成は2005年)は、ジェント(Djent)の代表格と呼ばれるバンドです。今回はそのPERIPHERY個人的な最高傑作、2016年発表の『Periphery III: Select Difficulty』をレビューします。今作は元々はEPとしてリリースする予定だったそうですが、思ったよりも曲が多く出来た為にフルアルバムになったそうです。今作の全曲プレイリスト(公式)はコチラになります。
 
 まず、PERIPHERYの中心人物ミーシャ・マンソー
は、2007年に実施されたインタビューで自身の影響元として、DEFTONES, TOOL, MESHUGGAH, SIKTH, 上原ひろみ, SHANE GIBSON, THE DILLINGER ESCAPE PLAN, DREAM THEATER, ION DISSONANCE, NEVERMORE, GUTHRIE GOVAN, BETWEEN THE BURIED AND ME, 植松伸夫, DEVIN TOWNSEND関連, OPETH, PORCUPINE TREE, GOJIRA, MATS/MORGAN, THE REFUSED, RON JARZOMBEKおよびBOBBY JARZOMBEK関連(WATCHTOWERなど), TEXTURES, RETURN TO FOREVER, PAUL ORTIZ(CHIMP SPANNER)...辺りを挙げています(他にもたくさん居るようです)。このインタビュー、PERIPHERYとして1stアルバムをリリースする前に実施されている為、上記のミュージシャン達の要素がそのまま今のPERIPHERYに反映されているかは微妙かもしれません。とはいえ、MESHUGGAHRON JARZOMBEKといったフュージョン寄りのメタルや多くのフュージョンの音楽家が挙げられている一方で、70~80年代のオーソドックスなHR/HMミュージシャン達の名が全く挙がっていない辺りは面白いですね。

 上記のミュージシャンの中で特に直接的にPERIPHERYに影響を与えているのはMESHUGGAH, ジェントの先駆けTEXTURES, MESHUGGAH影響下にあるキャッチーなアヴァンギャルド・メタルSIKTH辺りでしょう。PERIPHERYは、 (MESHUGGAHが世に広めた)四拍子かつ4〜8小節単位で1ループするリズム構成、それに変拍子を交えたバンド達すなわちTEXTURESやSIKTHからの影響が色濃い音楽性です。そして、MESHUGGAHの様に徹底して四拍子で突き進むのではなく、随所に三拍子や変拍子を交えており、このカクカクした、つんのめった感じが、PERIPHERYひいてはジェント全般の特色と言えます。

 PERIPHERYの魅力はシンコペーションや変拍子を多用したつんのめったリズム感覚に加えて、トリプルギター編成を活かした副旋律の多さやコーラスワークを駆使した華やかさや親しみやすさ、フュージョン的なオシャレ感だと私は思っています。そして、今作はそうした彼らの魅力が特に際立っている作品でしょう。
プログレッシヴ・メタル史上最も明るい曲であろう「The Way The News Goes...」はもちろんの事、DEFTONESリスペクトな「Remain Indoors」であってもDEFTONESの数倍ポジティブなバイブス。「Marigold」はそうしたPERIPHERYの魅力が詰まった大名曲です。スペンサー・ソーテロの歌唱法の使い分けがバッチリ決まっているヴァース部分や、ギタリストのマーク・ハルコムから文句が出るくらいテクニカルなミーシャ作のリフ、文句無しにキャッチーなサビ等が魅力です。

 今作はアルバム全体の構成も素晴らしく、今作で唯一クリーンボイスが使われていない(それでもサビはキャッチーな)「The Price Is Wrong」の勢いのある出だしから、スペンサーがドイツ人の彼女に宛てたラブソング「Lune」の"大団円"と呼べる壮大で少しベタなエンディングまで、各曲の尺の長さを気にさせない
非常にキャラ立ちしたバラエティ豊かな曲が収められており、全く飽きずに聴き通す事が出来ます。「Marigold」、「Catch Fire」、「Luna」の様に、もはや全くジェント的でない曲も多いですね。 ちなみに、今作収録の「Absolomb」は1stアルバム録音時のアウトテイクだそうで、3rd辺りのMESHUGGAH的な無機質な刻むギターリフを基調に、フュージョン的な透明感のあるギターフレーズが乗っかる構成は確かに1st的。また、今作で最もジェント的なのは以下の曲ですね。
 イントロは5小節で1まとまりのフレーズを2回繰り返す構成となっています(たぶん)。この曲は始めから終わりまで四拍子ですが、変拍子を用いた曲も彼らには多いです。

 エモ風の歌メロ、彼らの根の明るさが滲み出た(?)空気感が一部のメタラーの皆様にこのバンドの受けが悪い点なのかもしれませんが、キャッチーさと複雑なリズム構成を両立した音楽性はなかなかハイレベルかつ個性的でしょう。個人的にも今まで聴いてきた全てのメタル作品の中でトップ20に入るくらいにはお気に入りの大傑作です。非常に親しみやすいので、メタル初心者にも超オススメです。

 ちなみにこのバンド、今時のバンドとしてはそんなに珍しく無いのかもしれませんが、かなりサービス精神が旺盛。Youtubeの公式チャンネルでアルバム制作時のドキュメンタリーや演奏動画を公開していたり、2nd収録曲のYoutubeは説明欄でメンバーが曲解説をしていたりメンバーがredditでファンからの質問に答えてたり、EPをちょくちょく出す理由が「ファンを飽きさせない為」だったり。各メンバーのサイドプロジェクトも盛んなので、色々と巡ってみると面白いと思います。

 ところで、2007年に実施されたインタビューで、ミーシャは「最近の俺の作るリフの大半はポリメーターでもポリリズムでも無くて、シンコペーションが使われてるだけだよ。」と述べています。また、MESHUGGAHの誰かもだいぶ前に「俺達の曲にポリリズムは使われてないよ。」と言っていたらしいですし、「ジェント=ポリリズム」という認識は間違いの場合が多いと思われます。

 それから、VEIL OF MAYABORN OF OSIRISがジェント扱いされる事がありますが、彼らは小節の節目にキッチリと切れる短めのリフが多く、変拍子も少ない為"純粋なジェント"かどうかは微妙だと私は思います。『Eclipse』においてミーシャにプロデュースおよびリフ作りに関わってもらっているVEIL OF MAYAはともかく、BORN OF OSIRISは自分たちはMESHUGGAHから直接的な影響は実は受けていないと公言しています。個人的にBORN OF OSIRISは「ジェントっぽい派手なデスコアバンド」という認識です。・・・とはいえ、そもそもジェントの定義そのものが曖昧過ぎるというか自分を含めて誰も良く分かってないと思うので、この話自体が不毛というか無意味なんですけど("純粋なジェント"って何なんだよってハナシですよね)。余談として聞き流しておいて下さい。

 MESHUGGAHのリズム構成についての解説・・・では全然無いんですけど、MESHUGGAHおよびジェントの聴き方について自分が感じた事を書いた記事はコチラです。興味があったら是非どうぞ。

主な参考文献(全て英語)
http://www.sevenstring.org/forum/showthread.php?t=28505 
http://www.prog-sphere.com/interviews/mark-holcomb-interview/
http://iheartguitarblog.com/2016/07/interview-peripherys-mark-holcomb.html
http://www.themetalistza.co.za/int-interview-getting-krankd-up-with-periphery-3/



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